ピアキャスト偉人伝 殺し愛 その7

その6から

 精神的に追い詰められ、更に金銭を失った殺し愛にこれ以上失うものは何も無いはずだった。
しかし殺し愛は最後に残された肉体すら失う危機に遭遇した。

 その日リスナーがいつも通り殺し合いの配信を開くと、
そこには顔面全体を絆創膏で覆い、髪の毛がボサボサに乱れた男の姿が合った。
感情の無い目つき、下がった口角といった特徴から、その男が殺し愛である事は直ぐに分かったが、
何故殺し愛がこのような痛ましい姿になったのか、
視聴者は混乱した。

 「記憶が無いっちゃね・・・」
説明を求められた殺し愛は不安そうにこうつぶやいた後、認識している範囲で事態の説明をした。
 昨晩マスター、ロバートと酒を飲んだ事までは覚えているが、
意識を取り戻した時既に病院におり、
自分が何故このような酷い状況になったのかは全く覚えておらず、
自転車で帰宅中に何らかの事故を起こしたらしいと言う事しか分からないと言う。
 後日警察に赴き、事情を説明するという事になっているが、
自分が被害者なのか、それとも加害者なのか、それすら分からず、
更に道路交通法が改正され自転車も飲酒運転禁止の対象になっているという事実が、
殺し愛の不安を増大させていた。
 この日殺し愛自分の配信画面に映し出された自分の顔見てはひたすら
「ひどいひどい、ひどいっちゃね・・・」と呟き朝になり警察の迎えが来るまでの時間を過ごした。

 殺し愛は病院で意識を取り戻して検査を終えた後、医者から検査の結果の説明を受ける様子をPCに録画しており、
その動画を配信上で再生した。
映し出された病院の一室では、マスターが真剣に殺し愛の検査の結果を医師から聴いていた。
それにに対し本来一番検査結果を真剣に聞かなければならない殺し愛は
自分にカメラを向け
「いやーひどいひどい、ひどいねー」と繰り返し呟いていた。
おそらく殺し愛は自分の失敗により沢山の人間が動き、
その失敗を見られる事に気恥ずかしさを感じていたのだと思われる。

 朝になり警察に出向いた殺し愛は事故の処理を行い、数時間で美容室に帰って来た。
詳細は不明だが、殺し愛の身に起こった事に事件性は無く、
賠償の責任が発生するような相手も存在せず、
自転車での飲酒運転の件についても不問だったという。
更に奇跡的に殺し愛の財産のほぼ全てである自転車は無傷で殺し愛の元に戻ってきた。
 つまり、全ては事故の前の状態に戻ったのだ。
ただし殺し愛の顔に刻まれた痛ましい傷を除いては。

 殺し愛の顔に刻まれた傷は擦り傷であり、おそらくは数週間も経てば完治するものと思われた。
殺し愛も医師からそういった説明を受けているに違い無く、
顔面全体に絆創膏を張ったままファーストフード店に出向き、
その様子を配信する等、顔面全体が絆創膏という絶対的な個性を手に入れた事を楽しむ様子すらあった。
その配信を見たリスナーは改めて殺し愛のある種特殊な行動力に圧倒された。

 何故殺し愛に肉体を失う危機が訪れたのか、
誰かの悪意によって引き起こされたのではない。
30歳までろくに人付き合いをせず、酒も飲んだ事が無かった人間が、
年下の仕事上の上司に当たる人間と24時間生活を共にするという状況を数ヶ月続ける事によって生じた歪が蓄積していったのだ。
殺し愛のこれまでの人生で生じた歪を周りの人間に吸収してもらうには、殺し愛は年をとり過ぎている。

 リスナー、マスター、殺し愛が心に描く未来は
美容室開店の朝描いた未来とは全く異なっていた。
あの朝、努力の成果を示した店先の行列も今は無い。
そのうち人手が足りなくなるだろうと用意していたスタッフ募集の看板も掲げられる事は無い。
マスターはラウンジで寒さに震え、殺し愛に早く祖母の家からストーブを持ってくるように再三催促していた。 
 肉体、精神、経済、全ての面で状況は悪化し、
美容室開店の朝とは別の方向性の未来をリスナー、マスター、殺し愛は再び共有していた。

 人生は浮き沈みのあるものである、今の状況も努力すればきっとよくなる。
殺し愛の傷も時間が経てば傷跡はかさぶたになり剥がれ落ち、
何事も無かったかのように元通りの顔になる。
同じようにこの状況もそのうち良い方向に変わっていく。
希望的な観測を持つリスナーはそう考えただろう。
しかし、リスナーが再び傷跡が消えた殺し愛の顔をを見る機会はついに訪れなかった。
何重もの不条理を抱えたまま維持されてきたこの状況が、
ついに破綻する時が来たのである。


ピアキャスト偉人伝殺し愛編最終回へ続く

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復活愛

こんにちは。貴ブログを拝見しました東川です。日常生活に役立つ情報を提供することを目的としてサイトを運営しており、貴プログ訪問者の方にも興味ある情報だと思いトラックバック...

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待ってました!最終回wktk

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おー更新来ましたね
最終回待ってます
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