ピアキャスト偉人伝 殺し愛 その5
その4から
その5
マスターの感情が爆発した後も、
殺し愛が美容室で毎日寝泊りし、昼間はマスターが美容室を開け、
殺し愛は農業の準備をしつつ接客を手伝うという共同生活の形式は何も変わりは無かった。
しかし、マスターの殺し愛に接する態度は徐々に
以前のような年上として対等以上に扱うものではなくなっていった。
これまでマスターが母親的な手法でで殺し愛を成長させて来たのに対し、
ロバートは父親のような立場から殺し愛を成長させようとしてきた。
マスターは徐々にその手法をロバートがとっている父親的な手法に切り替えつつあった。
殺し愛、マスター、ロバートの三人をある種の労働組織として捉えた場合、
最も身分の低い殺し合いに対して仕事を覚えさせる目的で上から物を言う事は
決して不自然ではなかったが、
何もかも客観的に映し出してしまう配信のカメラ越しに見た場合、
業務時間内、業務時間外問わず殺し愛に新たなプレッシャーが生じるようになったという事実を、
全面的に支持する者は多くは無かった。
殺し愛に同情が集まるその一方で、殺し愛は美容室の接客において失敗を繰り返していた。
日常的な小さな失敗に始まり、客の車を運転し自損事故を起こす事もあった。
客の車で事故を起こした際、殺し愛はその詳細をブログにこう記した。
「自分以外全員飲酒していて自分が運転するしかなかった」
「同乗者の呼気で自分も酔った」
「これからは飲酒した人と同乗する時は換気を徹底する」
常識的に考えて、吸った人が酔うほどのアルコール濃度の呼気を吐き出すには
全身の水分を酒に置き換えるほど酒を飲んでもまだ足りないのではないだろうか。
殺し愛も冷静に考えればこのような非常識な結論を導き出す事は無いと思われるが、
このような答えを導き出した事が、この事故を起こした時の殺し愛の狼狽振りを現している。
殺し愛に対するロバートとマスターの一種の教育圧力は
美容室開店当時と比べた場合、明らかに強まっていが、
それと同時に夏から目まぐるしく変わった環境に対応するため、
殺し愛の内部からの「自分を変えなければ」という圧力もまた強まっていた。
殺し愛は感情が顔に全く表れない代わりに、
顔に表さなかったその感情を内部に限界まで溜め込む。
そしてそれが限界に達した時、号泣する。
それはこれまでリスナーが何回か目撃したものだった。
そして今回もリスナーはその光景を目撃する。
殺し愛、マスター、ロバートが旅行に出かけた際に録画した動画の中で、
殺し愛は号泣していた。
画面外からはマスターの声が聞こえ、何らかの説教の後である事が伺えた。
30歳にもなる男がカメラの前で破顔し泣きじゃくるその光景は奇妙な光景だったが、
それ以上に配信画面内に映し出された動画を無表情で見つめる殺し愛の姿が、
いよいよ経済面や人間関係面の、あらゆるひずみが殺し愛の内面を侵食している事を伺わせた。
殺し愛はこの窮状に必死に抗うために
ブログ内にて再度以下のような自分のコミュニケーション下手を克服する決意を表明した。
「自身の対人スキルはほぼ、0、
佐賀県という完璧な人情のフィールドにおいて、世間一般とのギャップを埋める事が
配信上でも課題となっている」
殺し愛はこの居候生活の中で自分の欠点と向き合い、自分を変えようとしていた。
その点で殺し愛は確実に成長していた。
美容室にはまだテレビが無かった。
当初はネットが開通していればネット経由でKeyHoleTV等で視聴すればよいという判断から、
アンテナの設置すらしていなかった。
しかし客の全てがPCの操作に慣れているわけではなく、
客側から普通のテレビでテレビを見たいと言う要望があったため、アンテナを設置する事になった。
そしてそのアンテナの設置に関する話し合いの中で、
アンテナに必要な器具の値段を聞かされたマスターは「もう限界」という表現を使い窮状を訴えた。
その訴えを受け殺し愛は「ええ、出しときますけん」と返答した。
居候開始時の、殺し愛がマスターに一方的に世話になっていると言う状況は、
徐々に変化を見せ始めていた。
この時期、殺し愛は謎かけとも何らかの示唆とも取れる行動をとる。
殺し愛は自らの掲示板に、居候を始めた日からその日まで収支を詳細に記したテキストデータを書き込んだ。
収支データの詳細をここに記す事は出来ないが、
この収支データからリスナーは
チラシ等の美容室に関する費用の一部を、殺し愛が出していた事を知った。
殺し愛は「この件でマスターに怒られた」と言いながらも、
何故かこの誤って書き込んだデータを消去しようとはしなかった。
殺し愛が何故データをあえて消さない理由は何だったのか、
ある一定の予想は建つが、真相は今もって謎である。
自分達が夢を掴みつつあると確信した美容室開店の朝から、
状況は大きく変わっていた。
美容室を取り巻く経済状況も人間関係も、総体として良くなっているとは決して言えなかった。
殺し愛は夢を見続けるために祖母から金を借りた。
しかし、その金を手に入れた早々、殺し愛に又も試練が立ちはだかるのである。
その6へ続く
その5
マスターの感情が爆発した後も、
殺し愛が美容室で毎日寝泊りし、昼間はマスターが美容室を開け、
殺し愛は農業の準備をしつつ接客を手伝うという共同生活の形式は何も変わりは無かった。
しかし、マスターの殺し愛に接する態度は徐々に
以前のような年上として対等以上に扱うものではなくなっていった。
これまでマスターが母親的な手法でで殺し愛を成長させて来たのに対し、
ロバートは父親のような立場から殺し愛を成長させようとしてきた。
マスターは徐々にその手法をロバートがとっている父親的な手法に切り替えつつあった。
殺し愛、マスター、ロバートの三人をある種の労働組織として捉えた場合、
最も身分の低い殺し合いに対して仕事を覚えさせる目的で上から物を言う事は
決して不自然ではなかったが、
何もかも客観的に映し出してしまう配信のカメラ越しに見た場合、
業務時間内、業務時間外問わず殺し愛に新たなプレッシャーが生じるようになったという事実を、
全面的に支持する者は多くは無かった。
殺し愛に同情が集まるその一方で、殺し愛は美容室の接客において失敗を繰り返していた。
日常的な小さな失敗に始まり、客の車を運転し自損事故を起こす事もあった。
客の車で事故を起こした際、殺し愛はその詳細をブログにこう記した。
「自分以外全員飲酒していて自分が運転するしかなかった」
「同乗者の呼気で自分も酔った」
「これからは飲酒した人と同乗する時は換気を徹底する」
常識的に考えて、吸った人が酔うほどのアルコール濃度の呼気を吐き出すには
全身の水分を酒に置き換えるほど酒を飲んでもまだ足りないのではないだろうか。
殺し愛も冷静に考えればこのような非常識な結論を導き出す事は無いと思われるが、
このような答えを導き出した事が、この事故を起こした時の殺し愛の狼狽振りを現している。
殺し愛に対するロバートとマスターの一種の教育圧力は
美容室開店当時と比べた場合、明らかに強まっていが、
それと同時に夏から目まぐるしく変わった環境に対応するため、
殺し愛の内部からの「自分を変えなければ」という圧力もまた強まっていた。
殺し愛は感情が顔に全く表れない代わりに、
顔に表さなかったその感情を内部に限界まで溜め込む。
そしてそれが限界に達した時、号泣する。
それはこれまでリスナーが何回か目撃したものだった。
そして今回もリスナーはその光景を目撃する。
殺し愛、マスター、ロバートが旅行に出かけた際に録画した動画の中で、
殺し愛は号泣していた。
画面外からはマスターの声が聞こえ、何らかの説教の後である事が伺えた。
30歳にもなる男がカメラの前で破顔し泣きじゃくるその光景は奇妙な光景だったが、
それ以上に配信画面内に映し出された動画を無表情で見つめる殺し愛の姿が、
いよいよ経済面や人間関係面の、あらゆるひずみが殺し愛の内面を侵食している事を伺わせた。
殺し愛はこの窮状に必死に抗うために
ブログ内にて再度以下のような自分のコミュニケーション下手を克服する決意を表明した。
「自身の対人スキルはほぼ、0、
佐賀県という完璧な人情のフィールドにおいて、世間一般とのギャップを埋める事が
配信上でも課題となっている」
殺し愛はこの居候生活の中で自分の欠点と向き合い、自分を変えようとしていた。
その点で殺し愛は確実に成長していた。
美容室にはまだテレビが無かった。
当初はネットが開通していればネット経由でKeyHoleTV等で視聴すればよいという判断から、
アンテナの設置すらしていなかった。
しかし客の全てがPCの操作に慣れているわけではなく、
客側から普通のテレビでテレビを見たいと言う要望があったため、アンテナを設置する事になった。
そしてそのアンテナの設置に関する話し合いの中で、
アンテナに必要な器具の値段を聞かされたマスターは「もう限界」という表現を使い窮状を訴えた。
その訴えを受け殺し愛は「ええ、出しときますけん」と返答した。
居候開始時の、殺し愛がマスターに一方的に世話になっていると言う状況は、
徐々に変化を見せ始めていた。
この時期、殺し愛は謎かけとも何らかの示唆とも取れる行動をとる。
殺し愛は自らの掲示板に、居候を始めた日からその日まで収支を詳細に記したテキストデータを書き込んだ。
収支データの詳細をここに記す事は出来ないが、
この収支データからリスナーは
チラシ等の美容室に関する費用の一部を、殺し愛が出していた事を知った。
殺し愛は「この件でマスターに怒られた」と言いながらも、
何故かこの誤って書き込んだデータを消去しようとはしなかった。
殺し愛が何故データをあえて消さない理由は何だったのか、
ある一定の予想は建つが、真相は今もって謎である。
自分達が夢を掴みつつあると確信した美容室開店の朝から、
状況は大きく変わっていた。
美容室を取り巻く経済状況も人間関係も、総体として良くなっているとは決して言えなかった。
殺し愛は夢を見続けるために祖母から金を借りた。
しかし、その金を手に入れた早々、殺し愛に又も試練が立ちはだかるのである。
その6へ続く


